Friedel-Crafts Reaction

Friedel-Crafts反応(アルキル化/アシル化)は、芳香族求電子置換反応の代表選手です。私は大学の学部時代に、学生実験でやりました。アルキル化はカルボカチオン転位やポリアルキル化といった難点を有しており、反応基質が限定されますが、アシル化は反応制御が容易で多くの場合単一の生成物を与え、生成物の多様な変換が可能(カルボニル基が取っ掛かりになる)であるなど、有機合成において有用な反応の一つになっています。

アルキル化もアシル化も、反応の律速段階は最初の求電子攻撃からVieland中間体へのStep とされています。ここでは、アルキル化とアシル化の性質の違いを、律速段階の解析を通して明らかにしていきたいと思います。

Acetylation of Benzene : For Example

f-c01.gif Fig.1 Vieland中間体の初期構造

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Fig.2 MEP計算の入力

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Fig.3 TS候補構造の抽出

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Fig.4 TS候補構造の読込

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Fig.5 最適化されたTS

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Fig.6 振動計算の出力

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Fig.7 IRCのグラフ

Friedel-Crafts反応の解析は、全てカルボカチオン/アシルカチオンが発生し、これがベンゼン環に接近していくという前提(AlCl3などは系を複雑にするので省略)で行います。最初に、ベンゼンとアセチルカチオンが結合したVieland中間体の最適化を行います。ベンゼンを作成し、アセチル基を付けたい炭素に結合した水素を斜めにして、水素原子を追加した後アルデヒド基に置換し、最後にアルデヒドの水素をメチル基に置換して初期構造を作成しました(Fig.1)。 [編集]メニューの[原子移動]を使ってうまく初期構造を作れば、最適化も速くなります。キーワード欄に「AM1 EF PRECISE CHARGE=1」と入力し(系が+1であることに注意)、適当な名前 (ここではPhAc-vieland.dat)で保存、計算を行います。

計算が終わったら、今度はMEP計算の入力を作成します。アセチル基のカルボニル炭素を選択し、結合距離の最適化フラグを-1に、追加データ欄に「1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3」と入力します(Fig.2)。キーワードは「AM1 EF CHARGE=1」とし、適当な名前 (ここではPhAc-mep.dat)で保存し、計算を行います。
※もしMEP計算が途中で止まる場合、アセチル基の座標定義を見直すと良いようです。メチルの水素がベンゼン環の原子で定義されていると、「MEPで変化させている所と違うところがすごい動くので計算やめます」というエラーが発生することがあります。また、GEO-OKというキーワードを使うことで、このチェックを無視して計算させることもできます。

計算が終わったら、Sn2の時と同様にarcファイルを開き、最もエネルギーが高い構造を探します。私の計算では1.9Åの時が最も高いエネルギー(186.466146 kcal/mol)だった(Fig.3)ので、この時の構造を遷移状態候補としました。この構造をAM1 EF...のところからコピーし、別名(ここでは PhAc-mep19a.dat)で保存、Winmostarで開きます(Fig.4)。アセチル基のカルボニル炭素の最適化フラグを1に戻し、キーワード欄を「AM1 TS PRECISE CHARGE=1」とします。これを保存し、計算を行います。

最適化された遷移状態をFig.5に示します。焦点となる炭素-炭素結合長は1.995Å。多くの炭素-炭素結合形成反応での遷移構造は、これに近い距離を取ることが多いようです。この構造が真に遷移状態であることを確かめるために、振動計算を行います。キーワードを「AM1 FORCE LET CHARGE=1」とし、適当な名前で保存(ここではPhAc-tsf.dat)して計算します。この計算で、虚振動が唯一つ存在することが確かめられます (私の計算では419.35i cm-1,Fig.6)。

最後に、この遷移構造からIRC計算を行い、この構造がFriedel-Craftsアシル化の遷移状態であることを確かめましょう。キーワード欄を「AM1 IRC=1 LARGE=100 CHARGE=1」及び「AM1 IRC=-1 LARGE=100 CHARGE=1」としたファイルを保存し(ここではPhAc-irc+1.dat及びPhAc-irc-1.dat)、計算を行います。今回の計算では、+1が原系側、-1が生成系側となっています。IRCをグラフ化したものを Fig.7に示します。本反応の活性化エネルギーは2.82818 kcal/mol,反応熱は-5.88311 kcal/molと算出されました。

Why Poly-Alkylation Occur?

f-c08.gif Fig.8 1st t-Bu化のTS

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Fig.9 2nd t-Bu化のTS

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Fig.10 2nd Ac化のTS

さて、Friedel-Craftsアルキル化の弱点の一つが「ポリアルキル化」であると冒頭で書きましたが、ポリアルキル化とは、一度に複数のアルキル基が導入されるという意味で、例えば塩化tert-ブチルとベンゼンとの反応では、tert-ブチルベンゼンで止めることは難しく、1,4-ジ-tert-ブチルベンゼンが主生成物として得られてきます。どうしてポリアルキル化が進行するのか、また、アシル化ではなぜポリアシル化が進行しないのかについて、調べてみたいと思います。

最初に、tert-ブチルカチオンとベンゼンとの反応をシミュレートしてみることにします。方法自体は前述のアセチル化と全く同じですので、ここでは大まかに述べるに留め、結果の考察の方に行数を裂きます。

ベンゼンとtert-ブチルカチオンとの反応の遷移状態をFig.8に、 tert-ブチルベンゼンとtert-ブチルカチオンがp位で反応した時の遷移状態をFig.9に、アセトフェノンとアセチルカチオンがm位で反応した時の遷移状態をFig.10に示します。いずれもMEP計算→TS計算→振動計算で確定した構造です。また、反応位置は配向性からもっとも有利な位置としました。

さて、tert-ブチルカチオンとアセチルカチオンの場合で、どのようにエネルギー変化が違うのかを下のグラフにまとめました。

f-c_diagram.gif

この図を見ると、アルキル化(上段)では1回目のアルキル化よりも2回目のアルキル化の方が遷移状態が低く、進行しやすいことが分かります。これに対し、アシル化(下段)では、1回目のアシル化よりも2回目のアシル化の方が遷移状態が高くなり、反応が進行しにくくなっています。

この結果を有機化学らしく解釈するならば、アルキル化では、1回目のアルキル化で生成するアルキルベンゼンのπ電子密度がもとのベンゼンよりも高くなり、カチオンと反応しやすくなるためにポリアルキル化が起きやすい。アシル化は、1回目のアシル化で生成するフェニルケトンのπ電子密度がもとのベンゼンよりも低くなり、カチオンと反応しにくくなる。という風に言うことができます。

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