NMR化学シフトの高速計算(新版)

以前、ORCAのIGLO法で高速且つ精度よくに化学シフトを計算できることを紹介しましたが、ver.4から計算方法がGaussianやGAMESSでも実装されているGAIO法に切り替わりました。IGLO法の記事と同じベンチマーク分子を用いて、どれくらいの精度と速度を実現しているのか、早速確認してみました。
出力される化学シフトの桁数も増え、1H-NMRの予測にも使えますが、本記事では13C-NMRについてフォーカスします。また、Blog記事で触れている通り、溶媒効果の取り込みには問題があり、正しく取り込んでも寄与はさほど大きくないことも多いので、今回は真空中での計算にしています。

代表的な有機低分子での計算

一般的な13C-化学シフトの範囲は0~220 ppmほどですので、その範囲をだいたい網羅するように9種類の有機分子を選び、CDCl3中での実測13C-化学シフト値※1をどれくらい再現できるかを調べました。9種の有機分子と、基準となるTMS(Tetramethylsilane)の構造を以下に示します。orca_iglo_01

構造最適化と振動解析はB3LYP-D3(BJ)/Def2-SVPで行い、得られた構造を使い、PBE0/Def2-TZVPPでGIAO法による遮蔽定数の計算を行いました。代表的な入力ファイルの一例を以下に示します。

最新バージョンでは、Hybrid DFTでも解析的な振動解析ができるようになりましたので、振動解析のキーワードとしてはFreqを使っています。遮蔽定数計算はキーワードとしてNMRが設定され、これだけでGIAO法による計算が行えます。NMRの計算ではRIJKを使うため、補助基底関数としてRIJK用のものを指定しています。

さて、実測値と計算値の比較が以下の表とグラフになります。
GIAO_9mol_tableGIAO_9mol_graph

このグラフは、生の計算値と実測値の相関をExcelで計算し(切片0の線形近似)、その傾きの逆数でスケーリングしたものを計算値(scaled)として使っています。遮蔽定数の計算結果は、化学シフト値の増大に伴って実測とのずれが広がる傾向にあり、振動計算と同様にスケーリングすることで実測値との一致を良くすることができます(scaling factorの研究例もあるようです)。

IGLO法と同様に、塩素原子が結合した炭素の化学シフトで誤差が大きくなっています。NMRの計算にかかる時間は、TMSがわずかに1分を超える程度で、ほぼいずれもSCF計算を含めても1分以内に計算が終わりました。これくらいの分子サイズでは、ほとんど待つことはありません。

大き目な分子での計算

より「現実的」なサイズの分子ではどうでしょうか。

Triamcinolone Acetonide(以下TAと略)は、分子量434.5の合成コルチコステロイドで、中時間作用型ステロイド系抗炎症薬として利用されています(参考:英語版wikipedia)。この分子の13C-NMRスペクトルは16.26~209.75 ppmと広範囲にピークが散在し、また配座が固定されているため、ベンチマークとして非常に都合の良い分子です。TAの13C-化学シフトの計算を、小さな分子の時と同じモデル化学で実施しました。
GIAO_TA_tableGIAO_TA_graph

こちらも非常に良い精度で計算ができています。NMRの計算時間はSCFも含めて約3時間でした。

実測データ出典
SDBSWeb : http://riodb01.ibase.aist.go.jp/sdbs/
(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 2009/06/07)

[本稿で行った計算の入出力及びExcelファイル(1.10 MB)]

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