Frontier Orbital Theory

現在では、分子軌道を使った有機反応の理解がさも当然のように行われるようになりましたが、その基礎を作り上げたのは故・福井謙一京都大学教授です。福井先生が発表した「フロンティア軌道理論」は、化学反応の本質についての、実に簡潔な規則とでもいうべきもので画期的でしたが、当時の有機化学者の中ですぐにこれが自分たちの分野と密接に関連していることを理解できた人は少なかったそうです。

今更言うまでもなく、フロンティア軌道とは、電子対によって占有された分子軌道の中で最もエネルギーの高い最高被占軌道(HOMO)と空軌道の中で最もエネルギーの低い最低空軌道 (LUMO),そして電子一つが占有する軌道である半占軌道(SOMO)の三つを指し、化学反応はこれらの軌道の相互作用を最も重要なファクターとして起こる、というのがフロンティア軌道理論です。

ここでは、いくつかの反応性に富む分子のフロンティア軌道を見ることで、その分子がどのような反応性を示すのかを予測してみたいと思います。

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Strain Energy

歪みエネルギーとは、異常な分子構造によって生じる分子の不安定化の大きさであり、その異常は (1)伸縮歪み(結合長の異常),(2)変角歪み(結合角の異常),(3)ねじれ歪み(二面角の異常), (4)立体歪み(空間的な原子の異常接近)に分類されます。ここでは、いくつかの環状化合物にスポットを当てて、主に変角歪みの影響について考察してみることにします。なお、ねじれ歪みについては、反応機構解析「Rotational Barrier」のページで触れます。

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Aromaticity

共役とは、多重結合(主に二重結合)が原子を共有せずに隣接した形(C=C-C=C)の事を指します。共役構造は、同じ炭素数で二つの二重結合が炭素原子を共有して隣接した形 (C=C=C:アレン/クムレン)や隣接していない形(C=C-Cn-C=C)と比較して、エネルギーが低くなります。そして、共役による安定化の最たるものに「芳香族性」があります。芳香族性による安定化は単なる共役安定化とは比較にならないほど大きく、「芳香族化合物」と呼ばれる有機化合物の一群を形成するほどです。

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Infrared Spectrum

有機分子の構造をいかにして決定するか――これは、有機化学の創成期からの重要な課題でした。既知の化合物との反応性から含まれる官能基を推定したり、燃焼して得られる二酸化炭素と水の質量から組成式を導いたり、といった方法が古くから行われてきました。赤外吸収スペクトルの測定は、分光法による構造推定の手段としては最も古い部類で、そして現在でも重要な位置を占めています。

赤外光(主に4000cm-1~400cm-1)は、分子に吸収され振動エネルギーとなります。逆に言うと、分子の振動エネルギーはちょうど赤外光の持つエネルギーと一致します。そして、振動のパターンや原子の組み合わせによってそのエネルギー=波長が変化します。これを利用して、分子がどの波長の赤外光を吸収するか=分子がどんな結合を持っているかを決定することができます。

計算化学における振動計算は、これ以外にも重要な側面を持ちます。それは、構造が遷移状態かどうかを調べる時です。遷移状態は虚の振動数をただ一つ持つ、という特徴があります。よって、得られた構造の振動モードを調べることで、停留点か一次遷移状態か高次遷移状態 (複数の虚振動を有する状態)かを判定することができます。

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NMR Shielding Tensor

分光法による分子構造決定において、古くからIRスペクトルが重要な役割を果たしてきたことは、IRの章で書いたとおりですが、当然、IRだけでは完全に有機分子の構造を決定することは困難であることが多いのは言うまでもありません。IRが化学結合を見ているのに対し、より新しい分光法であるNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)は「原子核の磁気的・電子的環境」を観測するものです。構成原子がどういう状態にあるかを、直接見ることができるNMRは、IRに比べて遥かに具体的な情報が得られ、複雑な分子の構造決定に大いに役立ちます。タンパク質の構造決定にさえ、NMRは利用されています。これはIRではまず不可能です。

NMRスペクトルは、分子を強い磁場の中に置き、マイクロ波の吸収を見たものです。原子核の周りの電子の状態(密度や広がりなど)によって磁場に対する反応が異なり、それが即ち吸収パターンの違いとなって現れます。1H及び13C-NMRはテトラメチルシラン(TMS)を基準とし、TMSとの吸収位置のずれで比較を行います。最新のGAMESSでは、NMRの絶対遮蔽定数を計算することができ、TMSの絶対遮蔽定数との差から化学シフトを計算で求めることができます。果たして、どのくらいの精度で計算することができるのでしょうか。

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Sn2 Reaction

Sn2反応…有機化学専攻の人なら知らない人はいない、最もベーシックな反応機構です。当然、現象の発見は古く、1986年にドイツのWaldenによって最初に立体反転を伴う反応が発見され(Waldenサイクル)、1920年代にイギリスのKenyonとPhillipsの巧妙な実験によってその現象が証明されました。速度論的な実験は1937年にイギリスのHughesとIngoldによって行われ、この機構はSn2と命名されました。

このSn2反応、計算で取り扱うのが意外と難しいもので、多くの計算化学者を悩ませているらしいです(本当にそんなに悩んでいるかは…ただ、難しいのは確かです)。ここでは、簡単な組み合わせとしてヨードメタンとフッ素アニオンで、Sn2をシミュレーションしてみたいと思います。

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Friedel-Crafts Reaction

Friedel-Crafts反応(アルキル化/アシル化)は、芳香族求電子置換反応の代表選手です。私は大学の学部時代に、学生実験でやりました。アルキル化はカルボカチオン転位やポリアルキル化といった難点を有しており、反応基質が限定されますが、アシル化は反応制御が容易で多くの場合単一の生成物を与え、生成物の多様な変換が可能(カルボニル基が取っ掛かりになる)であるなど、有機合成において有用な反応の一つになっています。

アルキル化もアシル化も、反応の律速段階は最初の求電子攻撃からVieland中間体へのStep とされています。ここでは、アルキル化とアシル化の性質の違いを、律速段階の解析を通して明らかにしていきたいと思います。

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Cope Elimination

Cope脱離は、ペリ環状反応の代表例・Cope転位とは全く異なる反応ですが、協奏的な遷移状態を経るという共通点があります。この反応はもともとアミンオキシドの熱分解によってアルケンを生成する反応ですが、アミンオキシドの分解には高温が必要とされるので、余り使い勝手の良い反応ではありませんでした。アミンオキシドの代わりにスルホキシド/セレノキシドを用いることで、より温和な条件で収率良くアルケンを得る変法が見出されてからは、専らセレノキシド脱離が多用されています。

ここでは、アミンオキシド,スルホキシド,セレノキシドのCope脱離を計算し、活性化エネルギーを比較することで反応の行き易さを見てみたいと思います。

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Diels-Alder Reaction

Diels-Alder反応は、共役ジエンとアルケンが協奏的に付加し、シクロヘキセンを生成する反応です(今更言うまでもないのですが)。この反応は、現在有機化学者が手にしている 6員環合成反応の中で、最も優れたものです。通常Diels-Alder反応は、電子豊富なジエンと電子不足なアルケン(ジエノフィル[ジエン好き]と呼ばれる)との間で行います。

本反応は、一度に二箇所の炭素-炭素結合が形成される反応です。二つの変数を同時に動かすには、STEP/POINT計算がよく用いられますが、今回は二つの結合を等しく伸び縮みさせるために「SYMMETRY」を使ってMEP計算を行います。

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Organometallics

有機合成化学は、Vaska型錯体に代表される有機遷移金属錯体の発見から数十年の時を経て、ようやくその恩恵にあずかることができるようになりました。有機金属とは、炭素-金属結合を有する化合物の総称で、特に、遷移金属との錯体を有機遷移金属錯体と称します。有機金属は通常の有機化学反応では起こり得ない数々の反応を生み出し、有機合成の方法論に新たな道筋を付けることになりました。均一系水素化,クロスカップリング,オレフィンメタセシス…これらは現在最も利用されている遷移金属触媒反応の一例ですが、いずれも通常の有機化学では不可能な反応でありながら高い収率・選択性を達成することができます。

えー、自分の専門であるあまり小難しいことを列挙しましたが、要は、遷移金属は炭素原子と (通常の有機化学の視点からは)不可解な錯体を驚くほど安定に生成し、そしてそれらは驚くべき反応性を示すのです。ここでは、そんな有機遷移金属錯体をモデリングしつつ、紹介していきたいと思います。

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Gas Phase Acidity

「酸性度」というと、色々な無機酸・有機酸の水中でのpKa値を想定される方が多いと思います。よく有機化学では、電子求引性置換基により酸性度が増強されるとか、共鳴構造が多く描けると酸性度が高いなどといった議論がされますが、これらは多くの場合水中でのpKa値を基にしていることと思います。しかし、このpKaという値が溶媒によって大きく変化することもよく知られています。これは、溶媒和に伴うエントロピー変化が酸解離平衡に重大な影響を及ぼしているためです。純粋な置換基効果の見積もりはpKaで行えないのです。

極力溶媒効果を排除した酸性度の指標として「気相酸性度(GA)」があります。これは文字通り気相中での酸性度で、IUPACの定義によると酸解離に伴うギブズエネルギー変化で表されます。酸解離に伴うエントロピー変化を排し、エンタルピー変化のみで表現したものは「プロトン親和力(PA)」と呼ばれ、置換基の電子的効果を比較するのに有用な指標となります。いずれも数多くの実験値も報告されており、文献によっては両者とも気相酸性度として報告しているケースもあります(例えばOrganic Chemistry InfoではPAをGAとして紹介しています)。ここでは、いくつかの有機分子の気相酸性度(GA及びPA)をPC GAMESSで計算して実験値と比較するとともに、MOPAC2007による計算(PA)で水中でのpKaとも比較してみたいと思います。

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Rotational Barrier

有機化学の教科書で最初に出てくるエネルギープロファイル(反応座標とエネルギーを軸にとったグラフ)は、おそらくアルカンの回転障壁に伴うエネルギー変化だと思います。単結合まわりは、sp3軌道の軸対称の為に回転の自由度が高いですが、それでも回転に伴うエネルギー障壁(ねじれ歪みとも)は非常に重要で、配座を偏らせたり、立体障害が大きい場合には軸不斉のような現象を引き起こすこともあります。

ここでは、エタン(C2H6)とヒドラジン(N2H4)のC-CおよびN-N結合の回転障壁を、反応解析に於いて必須のテクニックであるポテンシャル面走査の手法・ミニマムエネルギーパス(Minimum Energy Path : MEP)計算によりMOPAC2007とPC GAMESSで計算した例を紹介します。

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ホルムアルデヒドの励起状態計算

分子には基底状態と励起状態があります。多くの有機反応は基底状態で起こりますが、光照射下では励起状態からも反応が起こります。また、紫外・可視スペクトルは共役系の状態を知るために有用な情報を与えますが、これは電子の励起エネルギーを観測していることに他なりません。当然、物質の色もこの電子励起に伴う光吸収に起因しています。

励起状態は、分子軌道計算でもちろん扱うことができます。ですが、励起状態は基底状態と異なり無数にあるので、その取り扱いは時に非常に難しくなります。ここでは、最もよく励起状態が調べられている分子の一つ・ホルムアルデヒドを例に、励起エネルギーの計算と励起状態の構造最適化について概観します。

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1重項ビラジカルの構造と遷移状態探索

有機化学の世界においては、対象となる分子の多くは閉殻分子で、かつ反応機構も極性機構で捉えられています。しかし、その枠組みから外れる分子や反応機構も数多く知られています。今後、電子構造や反応機構が見直されていくものもあるでしょう。

計算化学において取り扱いの難しい化学種に「ビラジカル」があります。よく知られているビラジカルといえば酸素分子がありますが、他にも実際に観測されたものや理論的に考えられるものがいろいろあります。これらは1重項・3重項ともに閉殻状態の理論(RHF)では取り扱うことができません。1重項なのに閉殻じゃない、というと変な感じがしますが、実際に1重項ビラジカルは観測されていますし(酸素分子は基底状態が3重項ですが、1重項酸素も光反応等において重要な役割を果たしています)、最も長寿命の1重項ラジカルは日本で生み出されました(広島大・安倍研)。
1重項ビラジカルのような特殊な電子構造を扱うには、複数の電子配置を一緒に考慮する手法が必要です。多数の電子配置を参照する理論を「多参照理論」と呼びますが、ここではGAMESSを使って、そのような理論の一つ「CASSCF(完全活性空間多配置SCF)」の簡単な計算例をお示しします。

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